“電子音楽 in JAPAN”の中の”オレンジ” 2001

“オレンジ”情報の作られ方についてもう少し考えてみたい。

Wikipedia日本語版”LMD-649″の項で参考文献とされている田中雄二著『電子音楽 in JAPAN』アスペクト(2001年)を手に入れ、LMD-649とオレンジがどう書かれているのか調べてみた。
文字がびっしり詰まった分厚い本(総ページ数587ページ)だが、ここを覗かれているような方にはお薦めである。巻頭から非常に興味深くて面白い内容。古本なら安いですよ。
この本の494,495ページにLMD-649に関する東芝EMIの村田さん(今までMさんと書いてきたが皆さんお分かりでしょうから。。。)の雑誌内での発言と松武さんへのインタビューが掲載されている。
ここに私の名前が出てきたのは意外だった。それはさておき以下の松武さんの発言(とされる文章)が現在のLMD-649とオレンジについての認識の下敷き(の一部?)になっていることは確かなようだ。以下引用。

松武「スペックは8ビットで、秒数は1.2秒でした。これをのちに改良したのが”オレンジ”という機械で、こっちはPC-98を使っていて、12ビットで2秒になるんです。LMDの中身はZ80で、膨大なRAM(64キロ・バイト×12個)が挿さってました」

また松武さんのこの発言のあとで補足として以下のことが書かれている。以下引用。
のちのオレンジはPC-98のディスプレイ上で音の加工やタイミングを設定できるようになるのだが(それでも音色バックアップは、まだカセットへの録音記録だった)、

これらの発言をまとめると以下のようになる。

LMD-649 : Z80使用 A/D,D/A 8ビット 録音時間 1.2秒 64KbyteRAM×12個
オレンジ : PC-9801使用  A/D,D/A 12ビット 録音時間 2秒 データはカセットへセーブ
なんとも絶妙ななずれかた(笑)である。この本は1998年に刊行された「電子音楽イン・ジャパン 1955~1981」の増補版なのでインタビュー時期は1998年以前だと思われる。
LMD-649から見てみよう。録音時間1.2秒は以前紹介した雑誌記事通りであり、64Kbyte(バイト)RAM×12個は64Kbit(ビット)RAM×12個の間違いとみなせばこれも記事通りである。ところがなぜかここにZ80が登場し、A/D,D/Aは8ビットになっている。8ビットならRAMは8個で済むはずなので矛盾している。以前述べたようにLMD-649のA/D,D/Aは12ビットでCPUは使用していない。松武さんの発言でも12ビットと述べられているものがある。
次にオレンジ、また新型が出てしまった(笑)。私の想像ではこれは後のLINDAシステムと一緒になってしまっているように思う。ディスプレイ上で音の加工やタイミングうんぬんはその通り。しかしなぜかここに至ってもデータはカセットへのセーブだというのが不思議だ。
オレンジについてはこのブログ(最下部)のようにZ80を使用と書かれているものもある。以下引用。
LMD-649はすぐに改良版が作られ、Apple II互換機用のケースに納めたことから、アップルをもじって「オレンジ」と呼ばれました。CPUにz80、RAM64kb×12。その後も数々のレコーディングの現場で活躍しました。

上の文章はご丁寧にRAM64kb×12というところまで
“電子音楽 in JAPAN” の松武さんの発言と同じであり、 それがWikipedia日本語版”LMD-649″の文章とミックスされている。”電子音楽 in JAPAN”の文章が少し分かりにくい書き方なので誰かが文脈を読み違えPC-98とZ80を間違えたか、誰かが間違って文章をコピペしたのだろう。

“電子音楽 in JAPAN” を読めば、Wikipedia日本語版の”後継機”の謎は解けるかと思ったのに、

当時秋葉原などに数多く出回っていた、Apple IIの互換機製作用のプラスチックケースに後継機は納められた。Apple IIそっくりになった外観から、アップルをもじって「オレンジ」と命名。以降、数々のレコーディングの現場で、ジャケットにはクレジットされることなく活躍した。

このようなことは全く書かれていない。
Wikipedia日本語版の著者は一体どこから上の内容を引っ張ってきたのだろう?謎は深まるばかり(笑)である。まだまだブログのネタになりそうだ。

2012年2月3日

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