“オレンジ”という名の幻

ブログにLMD-649について書き、資料探しや自分のブログへの反響を見るため”LMD-649″を検索することが多くなった。そこで必ず出てくるのが様々な”オレンジ”である。

LMD-649のハード設計・製作に関わり、その後のLINDAでソフト作成に関わった私だが、LMD-649ではない”オレンジ”というサンプラーは知らない。

まず、LMD-649は月刊ロッキンf 1982年3月号で紹介された1バージョン、1台しか存在しない。最初からA/D,D/A12bit、デジタルスイッチで再生開始アドレスと終了アドレスを指定できた。

結論的にはWikipedia日本語版に代表されるような記述の”オレンジ”は伝聞と推測から生まれた”幻”である。
以下Wikipedia日本語版”LMD-649″の”後継機”欄を引用して確認していきたい。
LMD-649はノイズなど音質に問題があり(注1)、録音時間も短かったために、すぐに改良版が作られた(注2)。当時秋葉原などに数多く出回っていた、Apple IIの互換機製作用のプラスチックケースに後継機は納められた。Apple IIそっくりになった外観(注3)から、アップルをもじって「オレンジ」と命名。以降、数々のレコーディングの現場で、ジャケットにはクレジットされることなく活躍した。
雑誌『サウンド&レコーディング・マガジン』に、オレンジの製作記事が数ヶ月にわたり、スペックを限定した内容で連載(注4)されている。

 

注1)松武さんは音質についてAmazon”YMO第四のメンバー松武秀樹が語るテクノポップ的歌謡曲”の中でこう述べている。以下引用
(真鍋ちえみ『不思議・少女+』封入写真を見て)そうそうこれ。全部僕の機材。これが最初のサンプラー「LMD-649」。 YMO『BGM』あたりから使っているやつ。1.2秒しかサンプリングできない。でも当時リン・ドラムは8bit、こっちは12bitだからハイ・クオリティ、しかもリン・ドラムは早いテンポだとおっつかないし、いっぺんに鳴らすとずれまくる。
“12bitだからハイ・クオリティ”のどこに音質の問題があったのだろうか?

 

注2)また“不思議・少女”のオリジナルアルバムは1982年8月25日に発売されていて、そのライナー・ノーツにLMD-649の画像があったということ。1981年11月~12月にかけてのウィンターライブでLMD-649が使用されていたことは周知の事実だが、その後1982年にかけても使用されていたことがわかる。”すぐに改良版が作られた”っていつのこと?

 

注3)LMD-649はCPUを使用せずハードロジック回路で構成されている。ASCIIキーボードやCRTに接続することは考えられていないので、もしApple IIのケースに入れたならキーボードのスペースをパネルでふさいでそこにスイッチ類、7セグLED、ボリュームなどを取り付けなくてはならない。当然Apple IIそっくりなはずもないし、キーボード内蔵型のコンピューターケースに組み込む必然性も無い。
“オレンジ”にASCIIキーボードが付いていたとするなら、それはもはや全くの別物である。

 

注4)これは以前紹介したLMD-649miniの連載記事のことだと思われる。”オレンジmini”という名前でないのはなぜだろう?

 

以上のことを踏まえて、しかし、”オレンジ”という名前の機材は存在していたようだ。

大澤誉志幸さんへのインタビューの中に以下の発言がある。
その後プロになってからは、シンセサイザー・プログラマーの松武秀樹さんが”オレンジ(松武氏が当時カスタムで制作したオリジナル・サンプラー)”をスタジオに持ってきたのを使わせてもらったりしてね。

 

“オレンジ”=LMD-649だろう。

 

改良版が作られたとか、Apple IIのケースに入れられたとか、誰が言い出したことなのか興味がわいてくる。

2012年1月20日

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